総合内科よわ医の貧弱ブログ

貧弱な総合内科医が好きなことを好きなように書きます。

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自分の最期を考えたことがありますか? その1

 



はじめに

 私は医師になってから大学病院, 地域の基幹病院, 一般市民病院 (現在), 療養型病院のすべてで働いた経験があります。今内科の医師として働いていて強く感じること、それが我々は最期について考えなくてはいけない、ということなのです。

 この考えに至った経緯をお話ししたいと思います。そのためにはまず現在の私の仕事内容と、直面している問題点について書きます。最初に今回の要点をまとめておきます。

今回のまとめ
  • 市中病院の内科は、高齢者の診療がメイン。高齢化がものすごい勢いで進んでいる。
  • 私の仕事のほとんどが、患者さんにとっての"人生の最期"に触れることである。
  • 人生の最期について考えている人は非常に少ないのが現状。
  • 人間はいつか必ず死ぬ。理想の最期を迎えるためには、早くから最期について考えていくことが必要。

 

現在の仕事内容

押し寄せる高齢化の波

 ふと、自分の担当患者の年齢を見てざっと平均を出してみました。だいたい85歳でした。皆様はどう感じたでしょうか。自分はすごく高齢だな、と感じます。

 

 どうしてこのようなことになるかというと、まずそもそも若い人はあまり入院が必要な病気にはなりません。そして、若くてしっかりとした治療が必要な人は大学病院もしくは基幹病院に行くことになります。

 

 ご高齢で、大学病院のような先進的な治療が必要ない方が一般市民病院にいらっしゃるわけです。なので、主に高齢者の診療を行うこと自体は何も不思議ではありません。

 

とはいえこの数年で加速度的に患者の年齢層が上がっていると感じます。80代どころか90代の患者さんを診てもあまり驚かなくなりました。

 

超高齢患者に何をしているのか

 ではこのような超高齢患者に対してどのような仕事をしているのか、というと一言で言うと"人生の最期に対するお手伝い"です。

 

このような超高齢患者たちは、多くが誤嚥性肺炎や圧迫骨折などの加齢に伴う病気で入院します。もちろん治療を行うのですが、体力が大きく低下しご飯が食べられなかったり動けなくなってしまうのです。

 

 そうなると、栄養をどのようにとるのか (胃ろうを作るのか、点滴で栄養を継続するのか), 家に帰るのか、それとも施設や療養型病院へ行くのかということをご家族と相談する必要が出てくるのです。心臓マッサージを行うかどうかや人工呼吸器の使用についても説明をします。

患者家族の反応

 そしていざご家族と相談すると、ほとんどのご家族が今までそんなことは考えたことがない、と言います。この段階になって初めて最期について真剣に考えるのです。

 

 ですが、この段階で考えるのははっきりいって手遅れだと思います。患者本人の意向もわからないし、そもそも選択肢がかなり制限されています。もっと早い段階から考える必要があるのです。

 

最期を考えなかった際の行く末

 最期を考えずに過ごしてしまうとどうなるのか?

 

 殆どのケースがなし崩し的に胃ろうや点滴の栄養を選択して療養型病院に転院していきます。なぜなら、十分に最期について考える時間がないからです。市中病院には長い間入院することはできないのです。

 

  胃ろうや点滴の栄養自体を否定する気はありません。例えば、若くして脳卒中を起こして経口摂取が不可能になってしまうような方もいらっしゃるからです。

 

 ですが、楽に死ぬ、苦痛が少なく最期を迎えるという観点ではこれらの栄養は妨げになると言わざるを得ません。

 

 ご家族としても本当にこれでよかったのか?と疑問を抱えながら過ごすことになり、なによりご本人もつらい最期を過ごすことになるかもしれないのです。

 

 私はいつもこのような症例を経験するたびにもっと早くから最期について我々と相談ができていれば、とやり切れない思いになるのです。

 

いつから自分の最期を考えればよいのか?

 

 これについては明確な答えはありません。ですが、一つ知っておいてほしいことがあります。それは平均寿命と健康寿命についてです。

 

 平均寿命という言葉は聞き覚えがあるかもしれませんが、健康寿命という言葉はご存じない方も少なくないと思います。以下引用です。

 

平均寿命とは「0歳における平均余命」のことで、2019(令和元)年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です[1]。一方、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいい、2019(令和元)年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています[2]。2001(平成13)年から男性の方が女性より健康寿命は延伸しており、男女差も若干縮小しています

平均寿命と健康寿命 | e-ヘルスネット(厚生労働省) から引用

 

 これを踏まえて私が伝えたいことは、

 

  • 平均寿命、健康寿命は延びているが、平均寿命と健康寿命の差はほとんど変わらず10年程度である。
  • 平均寿命を過ぎればいつ死んでもおかしくない。同様に健康寿命を過ぎれば普通に日常生活を送れなくなってもおかしくない。
  • 今の日本でいわゆる"ピンピンコロリ"などほぼあり得ない。

 

 私は医師になるまでは大きな病気をしなければ平均寿命ぎりぎりまでは元気に生きて、最後の最後に少しだけ寝たきりになるという甘い考えを持っていました。

 

 実際はそんなこと全くないのです。健康寿命を過ぎれば誰のサポートも受けずに元気に生きることが難しくなります。気力も体力も相当に落ち込むのです。認知症を発症することもあり、この段階で最期について考え始めるのは明らかに遅い。

 

 気が付いたら人生の最終段階に入ってしまって、自分の意思と関係なく周りの人間に最期について決められてしまうということになりかねません。

 

 以上より、どんなに遅くても健康寿命に入る前には最期について考え始めた方が良いと思います。さらに言うなら早くても早すぎることはないと考えています。

 

最期を考えるって、どうすればいいの?

 最期について考えた方がよいかもしれないと思っていただけたと思います。ですが、そう言われても何をすればいいのかわからないですよね。

 

 実は国も自分の最期について考えることを重要だと認識しているのです。みなさんは

ACP (Advance Care Planing) という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。人生会議という愛称で、現在厚生労働省によって啓蒙活動が行われています。

 

 別の機会にACPを踏まえてどのように自分の最期を考えていくか、お話していきたいと思います。

 

まとめ

 今回は私が現在仕事をしている中で最も大きな問題と考えている、人生の最期について決めていない方が多いということを記事にさせていただきました。

 

自分の最期についてなんて考えたくない!不謹慎、気が滅入る!というご意見はよくわかります。日本という国は元々死について考えることを避けたがる文化ですから。

 

ですが、自分の人生で生き方だけ考えて死に方は考えないというのもおかしな話と思うのです。納得して人生を終えるためにも、最期について考えることをもっともっと普及させる必要があると思います。

 

 読んでいただきありがとうございました。次回から何回かに分けて、最期について考えることを引き続き書いていきたいと思います。