はじめに
今回は前回の話の続きです。治療内容の説明、そして治療のゴールにおける説
明について良い医師が心がけていることを書いてみたいと思います。ポイントを最初にまとめておきます。
- 患者さんの頑張りを認めた上で、わかりやすく治療内容を説明してくれる医師を選びましょう。治療の良い面だけで無く、合併症や金銭面まで説明してくれる医者は良い医者です。
- 治療の決定を独断で行うのでは無く、患者さんと二人三脚で決めてくれる医者がオススメです。
- 治療のゴールをよく説明してくれる医者を選びましょう。ゴールがわからないと、治療の継続が難しくなります。
治療内容の説明と合併症
ここでは医師は治療に対する正確な知識が求められます。今回は実際に2型糖尿病の治療中の患者さんで、血糖コントロールの強化を行う患者さんを例に見ていきます。患者さんはAさんとします。良い例と悪い例を対比させてみていきましょう。
良い例
Aさん、大分血糖のコントロールが良くなってきましたがもう一息ですね。食事管理はかなり頑張っていただいているようなので、もしよろしければお薬を追加してみませんか?SGLT2阻害薬というお薬でAさんにはぴったりだと思います。
うーん、薬が増えるのはできれば避けたいのですが、、その薬はどこが良いんです?
SGLT2阻害薬はおしっこから糖分を出して血糖値を下げるお薬です。体重を減らす効果があります。血糖値以外にも、腎臓が悪くなるスピードを抑えたり、心不全での入院を減らす効果があります。Aさんは慢性腎臓病をお持ちで過去に狭心症を起こしているので、メリットが大きいと思いますよ。
なるほど!でも、合併症とかは無いんですかね?以前コレステロールを下げる薬で筋肉が壊れる病気になったもんで新しいお薬は怖いんです。。
もちろん合併症はあります。代表的なものとしておしっこの感染を起こしやすくなったり、頻尿になったりすることがあります。後は食事がとれないときに内服すると危険なことがありますね。ですが比較的安全性の高い薬だと思いますよ。
わかりました、でも新しい薬だからジェネリックもないし高いんじゃないですか?
今回はまず少ない量で始めますので、1錠○円です。一ヶ月辺り△円ですが、Aさんは3割負担なので□円ですね。
それくらいなら問題なく払えそうです!
あと、注意点なのですがこのお薬は腎臓を守るお薬と言いました。ですが、内服を始めて間もない頃に一度腎臓の値が一過性に悪くなります。ですがこれはあくまで一過性です。長期に使えばやはり腎臓の機能は使わない場合に比べて保たれることがわかっています。
わかりました、次回びっくりしないようにします!
実際はこんなに理想通り会話が進むことはなかなかありませんが笑
あくまで例と言うことなので。良かった点を見ていきましょう。
- 患者さんを否定しないこと
前回の記事で述べたとおり、生活習慣病はもちろんのこと治療って患者さんに治療したいって思っても貰わないとうまくいかないんですよ。実際は食事制限守れない、薬をちゃんと飲まない患者さんはたくさん居ます。
結構こう言う医者が多いなあと思うのが、いわゆる正論マンです。治療がうまくいかない原因が明らかに患者さん側にある場合、そこを責め立ててしまうということです。理論的には正しいですが、人間は理論だけで生きているわけではありません。
どんな患者さんでも全く頑張っていないと言うことは無いと思います。やらなきゃいけないと思っているけど実行できない、という場合でもやらなきゃいけないとは思っているわけです。そこを認めてあげることが大切と思います。
皆さんは最近誰かに褒められことはありますか?僕はほぼないです笑
何歳になっても褒められることはうれしいものです。何か患者さんに改善を求めるときもできるだけ患者さんの頑張りを認めた上で話をしてくれると患者さんも受け入れやすいと思います。
2. 何故その治療が良いのか、説明が的確
ほとんどの病気で治療法が一つしか無い、ということはありません。今回例に挙げた糖
尿病も内服はもちろん、注射も従来のインスリンに加えて週に1回だけ打てば良い注射など様々です。
患者さんの背景をよく考慮して、医者が勝手に決めるので無く二人三脚で最善の治療を決めることが理想だと思います。患者さんに納得して貰うためには、何故その治療が良いのか説明するために正確な知識が必要です。どんどんと新しい薬が出てくるので、医者は勉強し続けないといけません。
医者にとっては薬を出すという当たり前のことも患者さんにとってはとても不安なことです。正確な知識を持って、できるだけ医学用語を使わずにわかりやすく説明して不安を取り除いてあげることが理想です。
もしこの医者大丈夫かな?と思ったら上の会話でも出した、何故この治療 (薬)が良いのか?という質問がオススメです。この質問に対する回答が適当な医師は良い医師でない可能性が高いです。
3. 合併症についてもきちんと説明している
どんな治療にも合併症があります。こればかりはどうしようもありません。一定の割合で確実に起こるのです。治療の良い面だけ話をしてしまう医師が結構多いと感じます。
もちろん話をしているから合併症が起こっても良いわけではないですが、信頼関係という意味では大きく違います。
医者が良い治療だから、と言って信じたのに説明されていない合併症が起きたら納得できるでしょうか?私は難しいと思います。
4. お金の話をしてくれる
これは自分が過去に痛い目に遭った経験があります。とある慢性腎臓病患者さんとのエピソードです。慢性腎臓病の患者さんは多くが貧血を抱えています。当時は治療法として注射の増血剤 (ESA製剤と言います)しかなく、ジェネリックもありませんでした。
貧血が改善しないため、増血剤をどんどん増やしていったのです。ある日外来で患者さんから「先生、あの注射結構痛いし俺には高すぎる!続けるならもう来たくないよ!」と大変ご立腹でした。
若手の医師って一杯勉強して患者さんを良くするんだ!という熱意に燃えて突っ走ってしまうことがあるんですよね。それ自体は悪いことではないのですが、このイベント以来患者さんの経済状況も考慮するようになりました。
悪い例
それでは悪い例を見ていきましょう。基本的には良い例の真逆です。
Aさん血糖のコントロールが悪いですよ!食事制限できていますか?このままだと糖尿病がさらに悪くなって怖い合併症が起こりますよ!新しい薬を追加します。
わかりました。。(頑張っているつもりなんだけどな。。)
Aさんみたいな心臓も腎臓も悪い人にはうってつけの薬があるから、それにしておきます。
どんなお薬なんでしょうか?
(どうせ説明してもわからんだろうに。。) 腎臓のSGLT2っていうチャネルをブロックして糖分を尿から排泄するお薬です。新しくて良い薬だから大丈夫ですよ。
そうなんですか (わかったようなわからんような)。。
こんな医者居るのか!と思った方。結構居るのです。患者の話を聞かない、治療の内
容、合併症の説明が浅い。このような医師であれば、通院もストレスになってしまいますね。
治療のゴール設定が明確
ここも意外と適当になっていることが多いです。たとえば、高血圧症で通院をしている
場合血圧がいくつぐらいであれば良いかわかっていないといけません。
でも実際は
血圧が高いって言われて何となく通院している。血圧がどれくらいがいいか良くわかんない。薬飲んでも飲まなくても体調変わんないし、通院する意味あるのかな?
こう言う患者さんがゴロゴロしています。こうなるといつまでたってもコントロールが悪かったり、通院が途絶えてしまったりします。
そうならないために良い医師はどんな病気であれ治療の開始時に患者さんに明確にこうなったら治療のゴール (目標)ですよ、と説明してくれるはずです。高血圧症であれば、家で測った血圧の値が125/75未満!という具合です。
医者とゴールを共有していることが良い治療となる大事な条件になります。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます。長くなってしまいました。
外来では病気に対する知識だけでなく、いかに患者さんのためを思った
コミュニケーションをしてくれるかが鍵だと思っています。
今通院している医師に不安を感じる場合は、正直に質問してみましょう。
本当に良い医者であれば、真摯に答えてくれるはずですよ。