特別に良い思いではないけれど
今となっては、子供と楽しい時間を過ごすイベントとなった、クリスマス。
しかしながら、私は今までの人生で、クリスマスに特に思い入れのある記憶がない。
だが、一つだけ印象に残っている思い出がある。それは、浪人時代の話だ。
高校生になってすぐに、私は運動系の部活をやめてしまった。辞めた理由もひどいもので、練習が面倒になったからだ。難関大学を目指す友人達は受験勉強を始めていたが、自堕落な私は当然勉強など全くせず、PCを自作しオンラインゲームにはまり込んでいった。
特にFPS (First-Person Shooter)ゲームにはまり、自分で言うのもなんだがそれなりに強かった。その強さと反比例するように偏差値は下がり、言うまでもないが受験は全滅したのであった。
浪人生となり、予備校生活となったが、夏くらいまでは懲りずにゲームをやっていた。そこからはさすがに死ぬ気で勉強したものの、合格できるのか非常に微妙なラインをさまよっていた。
12月というのは、浪人生にとってある意味一番不安な時期だと思う。共通テスト (私のころはセンター試験だったが)前で、いよいよ今までの成果を出す直前の時期だからだ。
例外なく私も毎日毎日不安だった。今になって思うと、不安になりすぎて頭がおかしくなったのだろう。12月24日、自習室を出た後、なぜか新宿のサザンテラスに行こう、と思ったのだ。
信じられないくらいダサいダッフルコート、靴、眼鏡、リュックサックを引っ提げて、私は早歩きで中央線に乗り込んだ。新宿駅に着くと、やや前傾姿勢、早足で南口改札へと向かう。自分で言うのもなんだが、異彩を放っていたと思う。
南口改札を出て、高島屋方面へと向かう。ここで、私は我に返ってしまった。ずっと頭がおかしい状況でいられたらよかったのに。近くのベンチに腰掛ける。「一体、俺は何をしているんだ?」
一気に現実に引き戻され、惨めな気持ちが湧き出てくる。浪人生という、働いているわけでもなく、学生とも言い難い存在。親のすねかじり。成績もパッとしない、この1年間親以外とほとんど会話していない、自分が居なくてもきっと誰も困らない。涙が出そうになる。
ふと、周りを見回してみる。さんさんと煌めくイルミネーションが目に入ってくる。「キレイだな」、私は無意識のうちにぼそっとつぶやいていた。そして同時に、「俺ってまだイルミネーション見てキレイだなって、思えるんだ」、と思った。もっと大げさに言えば、「俺はまだ死んじゃあいない、死んでいないんだから何でもできるじゃないか」、と思ったのだ。
歩いている人々の表情を見る。いちゃいちゃするカップル、恐らく家族にケーキでも買って帰るお父さん、男どもでやけ酒でもするであろういけてない集団。みんなそれぞれ幸せそうに見えた。いつもだったら、チクショウ!俺はこんなにつらいのに、と思うはずなのに、そんな気持ちは全く起きない。
なんだかよくわからないが、やれる気がする。来年は俺も彼女を連れてここを歩きたい、そう思った。
NTTドコモ代々木ビルを見上げる。ライトアップされたあの頂上から、イエスキリストが自分を見てるんじゃないか。そんな気がした。
さいごに
こうやって書いてみると、浪人時代の精神状態はかなり危なかったな、と思う笑。
だが、そんなことはどうでもいいのだ。過去の私のように、皆さんがクリスマスくらいは不安が取れて、安らかな気持ちで過ごせることを願う。
メリークリスマス!